My Favorite Things by John Coltrane

My Favorite Things by John Coltrane

(マイ・フェイヴァリット・シングス by ジョン・コルトレーン)

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古ぼけたターンテーブル。慣れない機材にドキドキしながら、プラスティックのカバーを上げてそっとレコード盤をのせてみた。

針を動かすと途端にディスクが回りだす、またもドキドキ。

New Yorkに来て最初に体験した図書館のリスニング・ルームは、歴史なのか文化なのか、独特の匂いと佇まいに満ちており、レコードを手に取るのも、ターンテーブルを使うのもまだまだ不慣れな日本人学生だった私には、緊張の連続だった。

繋いだヘッドフォンを耳に当てる。雑音のようなレコード盤独特の空気感を懐かしい、と思った瞬間に、その場をさっと切り裂くような鋭いピアノの音、それはそれまで私が慣れ親しんできたクラシックの典雅でキラキラした音色ではなく、もっと生の、『生きている』響きに思えた。「これが・・・ジャズの音」当時ジャズというジャンルには殆ど触れたことのなかった私が、初めて全身で感じた『ジャズ』の音だったと、今でも思う。

そして、恐らく誰もが知っているであろう映画『サウンド・オブ・ミュージック』の挿入曲である『マイ・フェイヴァリット・シングス』のメロディーが、少し甲高いサクソフォーンの音色で耳に飛び込んでくる。この時は、これがソプラノ・サックスという楽器であることすら知らなかったが、「なんてこの場所にピッタリな音なんだろう」呆然と聴き入ってしまった。いや、私の中ではその時既に、これが自分のNew Yorkを代表する一曲となったのだ。

それは、20年以上経った今も変わらない。

ジャズをあまり知らない人でも、この伝説的なサックス・プレイヤーであるジョン・コルトレーン(名前の響きもカッコイイと思う)は、聞いたことがあるだろう。現在でもジャズのスタンダードとされる1950年代~1960年代のビ・バップ、モード・ジャズから更にフリーでクリエイティブなスタイルを目指したジャズ・ミュージシャンの筆頭に挙げられる一人である。彼のメイン楽器はテナー・サックスだが、この頃(1960年)ソプラノ・サックスでの演奏を導入している。日本でもこの曲は人気が高く、カフェやレストラン、TVなどでお聞きになったこともあるかと思う。

サクソフォーンという楽器自体、多少『叫び』に近い音色を持つことがあるが、この『マイ・フェイヴァリット・シングス』を聴いていると、「私のお気に入り」というタイトルではなく、「私の祈り、願い、心の叫び」とでも表現したくなるような切実さを感じる。ジャズでは通常、テーマとなるメロディー、その後インプロビゼーションと呼ばれるアドリブ(コード進行は同じ)、そして再びテーマ、という流れだが、この曲に関しては、メロディラインが何度も何度も繰り返し、微妙にスタイルを変えて、訴えかけるように流れてくる。それはこちらの耳だけでなく、心に響き、コルトレーンの織り成す音世界に否応なしに引き込まれていく。これは彼の、サウンド・オブ・ミュージックなのだ。

気がついたら、涙が流れていた。New Yorkに来たばかりの私が、初めて感じた『New York』が、この一曲に凝縮されていた。

ライター:Zephyring-SMC

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